やねうらストーリー

東京で働く人の、頭の屋根裏にあるこぼれ話

パトリック・モディアノの「Suspended Sentences」を読んだ

 

今年のノーベル文学賞が発表されたということで、ノーベル賞つながりの読書ポスト。

 

パトリック・モディアノはフランスの作家で、2014年のノーベル文学賞受賞者です。お父様がユダヤ系イタリア人だったということで、ナチス・ドイツ占領下のパリを舞台にした作品が多く、曖昧な記憶や消失した人々、若さやアイデンティティ等をテーマにした作風で知られている。

 

私が今回読んだのは、彼の中編を三つ集めた英語の本。それぞれのストーリーは互いにつながっていないんだけど、テーマ的なつながりが深いということでつなぎ合わせて一冊の本にしたそうです。

 

確かにどの中編も遠い昔の記憶、変わってしまったパリ、現れては消えてゆく人々、などをテーマにしていて、共通してノスタルジックな雰囲気が流れていました。文章も当然ながら美しい。ノーベル賞の受賞理由として、スウェーデン・アカデミーは「最も捉えがたい人間の宿命を想起させるとともに、占領下の世界を浮き彫りにした記憶の芸術」と発表したけれど、「記憶の芸術」という言葉はこのノスタルジックな雰囲気にぴったりだと思う。ノスタルジックといっても、セピア色の写真みたいな感じじゃなくて、失われてしまった何かを悼むような悲しさがある。

 

フランス文化に興味があって、大学でフランス語を三年間も勉強した私にとっては、ぐっとくる作品でした。日本語訳された作品もいくつかあるみたいなので、美しい文章や、パリに憧れがある人、記憶がテーマの作品に興味がある人は、ぜひ。