やねうらストーリー

東京で働く人の、頭の屋根裏にあるこぼれ話

「異形の愛」を読んだ

 

異形の愛

異形の愛

 

 

 カルト的人気を誇る小説「異形の愛」。原作のタイトルは”Geek Love”。 Geekという言葉は「オタク」という意味で現在は使われるけれど、昔はサーカスの見世物芸人でニワトリの首を食いちぎる芸人を指していた言葉らしい。
 
タイトルが示すように、この物語は移動式サーカスで見世物芸人をしている一家のお話。経営難のサーカスを受け継いだ団長のアル・ビネウスキは、新入りの娘リリーと結婚し、素晴らしいアイデアを思いつく。「生まれたままの姿で仕事ができる子供を作ればいい」と。母親が妊娠中にドラッグやら薬やらを大量に飲んだ結果生まれてきた子供たちは、5人ともほぼ両親の望み通り。長男はアザラシ少年(身体から直接ヒレが生えている)のアーティー、長女たちは腰から下が一体で、ウエストから上が二人に分かれたシャム双生児のエフゲニアとイフゲニア、次女は小人症で背中にこぶがあり、アルビノのオリンピア、そして末っ子は超能力者のチック。
 
家族の中で唯一自分の芸がなく、兄のお世話をすることが仕事になったオリンピアの口から語られる物語では、この一家の互いに対する歪んだ愛情と、子供たちが成長するにつれて面する苦難と家族の行先が描かれる。
 
この小説は登場人物のユニークさが一番特徴的だけど、突き詰めてみるとやっぱり家族の話なんじゃないかと思う。ビネウスキ一家はアメリカ中を旅しながら公演をしているけれど、ほとんどサーカスの中から出ることはない。わたあめの屋台、簡易な遊園地、走り回る子供。全く同じ風景を見ながら日々を過ごすこの家族は、狭い空間に閉じ込められ、この5人にしか通じない強固な価値観を共有して育っていく。でも次第にその価値観は兄弟それぞれの中で暴走し始めて、ついには全てを壊してしまう。家族というのは難しいもので、こうやって小さな空間で時間を共にするからこそ、バランスが取れなくて歪んでいきやすい関係性だと思う。それが特殊な環境下でどうなるかを描いた美しい物語だった。
 
私は英語で読んだけど、翻訳版も出ています。なんといっても文章が美しいし物語のテンポがよく(次から次へと予想だにしないようなイベントが起こる)読みやすいので、数日間全てを忘れて読書に耽りたい方におすすめです。