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やねうらストーリー

アメリカ留学中の女子大生の、頭の屋根裏にあるこぼれ話

私は勉強しかできなかった

特別お題「青春の一冊」 with P+D MAGAZINE
http://blog.hatena.ne.jp/-/campaign/pdmagazine

 

皆さんの青春の一冊はなんですか?私の一冊はこの本です。

 

ぼくは勉強ができない (新潮文庫)

ぼくは勉強ができない (新潮文庫)

 

 

王道ですね!これ以上王道を行く青春本があろうか。

 

主人公はシングルマザーに育てられた時田秀美くん。アンソロジー形式で彼の高校生活を描くこの本は、時田くんと彼を取り巻く人々との交流を通じて、タイトル通り、勉強よりももっと大切なことがあるんじゃないの、って読者に問いかける。この時田くんがとにかくかっこいいんだな!正直で、素直で、ダサい人にはダサい、かっこいい人にはかっこいい、ってきちんと言える彼に、臆病で世間知らずで勉強しかしたことのなかった17歳の私はやられてしまった。

 

この本を読んだ時、私は高校二年生で、「良妻賢母になる」がモットーのような中高一貫の進学校に通っていた。この学校に入学するために小学四年生から塾に通っていた私は、高校二年生なのに、自分の通う教育機関の外の世界をあんまり見たことがなかった。髪を染める、メイクをする、ピアスをするなんてもってのほか、女子校だったから同い年の男子と話すのは年に一回程度、めがねをかけてださださの制服に身をつつみ、文庫本を読みながら電車で登校する私は時田くんのようなかっこいい高校生にはほど遠かった。時田くんは高校生というよりは、高校に通っている人、という形容の仕方のほうがふさわしいくらい、きちんと自分を持っている。高校や年齢に定義されない彼が、私の目にはとてもまぶしくうつった。

 

この本が素敵だったのは、自分をしっかり持っていない人がダサい人、ときちんと示してくれたこと。別に黒髪だからダサいとか、セックスをしたことがないからダサいとか、そういうことではなく、はっきりといいものをいい、わるいことをわるいという基準をもち、なおかつその基準に則って行動出来る人がかっこいい人なのだ、と登場人物たちをもって見せてくれた。しかも高校生が主人公だからといって勉強とか部活とかに範囲をしぼることなく、軽々とそういう境界線を越えて、仕事とかセックスとか結婚とかに話を広げ、社会レベルで見た時にかっこいいとはどういうことか、を見せてくれた。

 

この本に感化された私は、年上の彼氏をつくり、ピアスを三個あけて、膝下丈だったスカートを太ももが見えるまで短くした – ということはなかったけれど(むしろそういう方向に感化されたなら、この素晴らしい本を全く理解できなかったということになる。別の意味でのバカ優等生だ)、当時の自分がいた、東大受験がゴールと化した世界とは違う、もっと面白くて、もっと物事が腑に落ちる世界があるんじゃないかと考え始めた。

 

物事が腑に落ちるようになるには環境よりも意識の持ちようが大事だと気づけたのはもっと後のことだったけど、とにかくこの本は高い壁に守られて、勉強さえすればよい世界で生きていた私にこつんと石をぶつけてくれた。その後18歳になった私は、新しい世界を見たいがあまりに留学を決め、高校を卒業すると同時にピアスを一個あけ、黒髪はそのままに、アメリカに来た。21歳になった今の私は、時田くんのお眼鏡にかなう女の子になっているだろうか。素敵な男の子の目を気にする事なく、すっきりと自分をもった人になれるのは、いつのことだろうか。